はじめに
当事務所では、会社を設立する際のご支援をさせていただいています。
意外と知られていないことですが、実は会社にはいくつかの種類(形式)があります。
それぞれメリット・デメリットがあり、会社を設立する目的等によって適した形式を選ぶことが重要です。
今回の記事では、代表的な2つの会社形式についてご紹介させていただきます。
「合同会社」とは?
「合同会社」という言葉を聞いたことはございますでしょうか?
“会社”という言葉を聞いて思い浮かべる中で一般的に多いのは、「株式会社」だと思います。
名刺交換の際、「合同会社○○の大阪一郎です。」とは、あまり聞かないですよね。
聞きなれない「合同会社」ですが、実は、意外と身近な大手企業が選んでいます。
例えば、今ではかかせないスマートフォンで有名なアップルは「Apple Japan合同会社」、ネットショッピングサイトのアマゾンも「アマゾンジャパン合同会社」です。
なぜ、このような大手企業が、あまりメジャーではない「合同会社」なのでしょうか?
その理由を紐解くために、2つの形式の違いを見ていきましょう。
◆所有と経営について
一番の違いは、所有と経営の関係です。
簡単にご説明しますと、株式会社は、所有者は「株主」、経営者は「取締役」といったように、会社に出資をする人と会社を経営する人が法律上別れています。
これに対し、合同会社は、出資をする人と会社を経営する人が同一でなければなりません。このことから、合同会社では、出資者をしなければ、経営者になることができないのです。
なお、株式会社でも出資者と経営者を同一人物とすることができ、このような株式会社は一般的には少なくありません。(1人会社や、家族間経営の会社がこれに当てはまります。)
◆株式会社と合同会社の比較
これから会社を設立したい方や、法人成りを検討されている方へ、判断基準としてご参考いただけるように、株式会社と合同会社をそれぞれ比較していきます。
設立費用
株式会社 | 合同会社 | |
定款認証費用 | 52,000円 ※1 | 0円 |
定款貼付収入印紙 | 40,000円 ※2 | 40,000円 ※2 |
登録免許税 | 150,000円 ※3 | 60,000円 ※3 |
合計額 | 242,000円 | 100,000円 |
※1 資本金の額(定款に資本金の額の記載がないときは設立に際して出資され る財産の価額)が①100万円未満の場合は3万円 ②100万円以上300万円未満の場合は4万円 ③300万円以上の場合は5万円となります。
※2 定款を電子定款で作成した場合は、収入印紙40,000円の貼付は不要となります。
※3 株式会社は約2,000万円、合同会社は約800万円を超える資本金とする場合は、登録免許税の上記金額が増えることがあります。
※4 司法書士等に依頼した場合は、上記金額に別途費用が発生します。
上記の表から、合同会社の場合は、公証人による定款認証にかかる費用が発生しないことと、登録免許税が安くあることで株式会社に比べ約14万円も費用を抑えることができます。
これが合同会社を選択する大きなメリットであり、海外の大手企業が日本法人を設立する際に採用する理由でもあります。
株式会社と合同会社の主な違い
株式会社 | 合同会社 | |
知名度 | 高い | 高くはない (近年、増加傾向にある) |
最低人数 | 1名 | 1名 |
設立時最低出資額 | 1円以上 | 1円以上 |
出資者の責任 | 有限責任 | 有限責任 |
出資者の議決権数 | 1株1票 | 1人につき1票 |
決算公告 | 毎年必要 | 不要 |
役員の任期 | 取締役 1年~10年 (非公開会社の場合) | 期限なし |
設計の自由度 | 普通 | 高い |
代表者の資格 | 代表取締役 | 代表社員 |
法人税法上の取扱い | 普通法人 | 普通法人 |
法人名義での契約 | 可能 | 可能 |
みなし解散制度 | あり | なし |
これから上記の表をもとに、株式会社と合同会社のメリットについてみていきます。
知名度と信用度
株式会社という名前は、合同会社に比べると圧倒的に知名度があります。
弊社へご依頼いただくお客様も、まず「株式会社で会社を作りたいのですが・・・」と第一声で仰っしゃられることがほとんどです。
合同会社は、近年増加傾向にあり、株式会社に次いで多い会社形態です。
しかし、世間的には、合同会社という名前はまだ浸透していないため、あまりピンと来ない方が多いですし、法律上、株式会社と同じ法人格を持っているにも関わらず、信用度が低く思われるケースも多々あります。
法律上、株式会社と同じ法人格を持っているので、合同会社だから信用できない会社というわけではありませんが、知名度については、合同会社よりも株式会社にメリットがあるといえます。
出資を多数の方から募る場合
設立後に多くの会社、人から出資を募り事業を拡大したいとお考えの方は、株式会社を選択されるのが良いかと思います。
株式会社の場合、基本的には1株につき1票の議決権が付与されますので、少なく出資をしている人よりも、多く出資をしている人の方がより多くの議決権を持つことができます。
しかし、合同会社の場合は、定款により議決権比率を変更することができますが、原則、1万円出資した人も100万円出資した人も同じ1票の議決権しか持てません。
合同会社は、株式会社に比べるとさまざまな規定を定めることができます。
例えば、損益分配について各社員の出資の価額に関係なく、割合を定めることができ、意思決定においては、先程の議決権のところで申し上げたとおり、各社員が平等に扱われるのが原則ですが、出資以外の会社への貢献度等を加味して議決権の付与をするといった定めも可能です。
設立後に係る費用の違い(ランニングコスト)
株式会社と合同会社は同じ普通法人の区分ですので、法人税に差はありません。
よりどころである会社法の第440条第1項では、以下のように定められています。
「株式会社は、法務省令で定めるところにより、定時株主総会の終結後遅滞なく、貸借対照表(大会社にあっては、貸借対照表及び損益計算書)を公告しなければならない。」
出典:e-Gov法令検索「会社法」
合同会社には上記のような規定がなく、毎年の決算公告をする必要がないため、官報等の広告掲載料金が発生せず節約することができます。
上記の他に、合同会社の業務執行社員や代表社員には任期がないため、株式会社のように取締役の任期満了による役員変更登記が不要となり、登録免許税も節約することができます。かつ、選任懈怠といった任期満了後の役員を選ぶのを忘れてしまうということもありません。
(もし選任するのを忘れてしまい、何年も登記をするのを忘れてしまっていた場合、裁判所から通知が来て過料が科されてしまう恐れがあります。)
まとめ
ここまで見てきたとおり、会社を設立したい、法人成りしたい、しかし費用を抑えたいという方には、合同会社という選択肢がマッチする可能性が高いです。
しかし、残念ながら、知名度や信用度の面では、株式会社が大きく先行していることも事実です。
例えば、美容室や飲食店等のように会社名ではなく屋号を主に使用する場合には、合同会社におけるデメリットはそこまで考えなくても良いため、選ぶ可能性が高くなります。
選択をする場合において、会社名をどれぐらいの頻度で前面に出していくのか、出資をしてもらう人との関係をも含めた上で、株式会社なのか合同会社なのかを選択されるのが良いかと思います。
もっと詳しいことを聞いた上で決断したい、なかなか決められないといった悩みをお持ちの方は、いつでもお気軽にお問合わせください。